ネガティブ論

躁うつ病はなの頭の中を綴る日記ブログ。 ねこもりブログから来た方は、その落差に要注意。

2018年05月

ある日35才になる弟がお金を貸してほしいと言ってきた。第3話。

話しをまとめるとこういうことだ。
借金というのは、「お金を借りる」と書く。
サラ金や友人は、借金を申し込み、お金を借りて、必要ならば借用書も書いたので借金。
でもそれ以外、例えばクレジットカードや家賃の滞納は、払わなければいけないものを払ってないだけだから借金ではない。
「お金そのものを借りたかどうか」
つまり、ゆたかくんに言わせれば、ローンでさえ借金ではないわけだ。

頭が悪いとは知っていたけど、これほどとは思わなかった。
目の前で申し訳なさそうに185cm100kgの体を縮こませているゆたかくんを見下ろす。
握りしめた手のひらがしびれるように波打っていた。
「・・・クレカ、滞納、ローン、全部借金だよ。
 何かどれだけあるのか、全部話して」
ゆたかくんの言う借金の総額だけで、134万強。
ゆたかくんが借金じゃないと言い張ろうが、クレカも滞納もローンも借金だ。
借金だと思わず使っていたなら、バカみたいな使い方をした可能性は高い。
総額は、まだまだ増える。
はなの頭の片隅ではもう、債務整理や自己破産の文字も浮かび始めていた。

怒りで静かになるはなとは対照的に、目の前のゆたかくんは激しく動揺していた。
もともとうちに来た時から落ち着かないそぶりを見せていたのが、声がどもりだし、瞬きが止まらなくなり、汗が吹き出し、目は泳ぎ、初夏の夕涼みにひとり真っ赤な顔をしていた。
それでも、もういいよと言ってやるわけにはいかない。
今必要なのは、正しい現状把握。
説教や詰問や詳細はまだ後だ。
冷静になれと、何度も自分に言い聞かせた。

「クレジットカードは、キャッシングと買い物で、100万くらい」
楽天カードを、限度額いっぱい使っていると言った。
「滞納してるのは、家賃が3か月分。
 水道代と電気代とガス代は、もういくらかわからない」
聞けば、ガスはもう止まっているらしい。
自炊もできなくなれば、出費がかさんでいくのも早かっただろう。
総額は、ざっくり20万強くらいだろうか。
「車のローンが、200万」
今年の頭に新車を残価型クレジットで購入したそうだ。
その頃にはすでにかなりの借金があったはずなのに、ローンは借金じゃないと思ったらしい。

これで、合計は454万強。
概算の時点でこの額ということは、たぶん現実はもう少しある。
さっき聞いたゆたかくんの年収は、手取りで300万。
まともに返していたんじゃ、たぶん返し終わるのは無理だろう。

「・・・あと、お母さんにも20万借りてる」
474万強!
何やってんだあのバカ親は!

ある日35才になる弟がお金を貸してほしいと言ってきた。第2話。

「あなた、借金あるんじゃないの」
直球で尋ねたはなの言葉に、ゆたかくんは一瞬のためらいを見せた後
「うん、ある」
あっさりとうなずいた。

正直、はなは帰りに寄っていいかという電話があった時点で借金絡みを疑っていた。
理由はない。
ただピンときただけだ。
そしてゆたかくんも、あの時は背に腹は代えられなくてお金を借りには来たけれど、きっとばれるだろうとどこか覚悟にも近い気持ちを持っていたと言っていた。
きっと運命の限界点だったんだと思う。
でも、
「借金、いくらあるの?」
そこが問題だった。

今日ゆたかくんが口にした金額は15万だが、そんな金額が総額のはずがない。
そんな程度の金額で、ほぼ連絡の途絶えていたはなのところまでくるもんか。
それなら、よっぽど親しくしていた親や下の弟の方にいくだろう。
もしかして、もうそちらにも行った後か?
はなが知らされてないだけか?
だとしたらどいつもこいつも最悪だ。

顔をゆがめていたゆたかくんが、目をぱちぱちさせながらゆっくりと口を開く。
「金額は、正確にはわからない。
 100万を、こえるくらいだと思う」
・・・あほか。
ゆたかくんが顔をあげた。
心の中で毒づいたつもりが、口からも出ていたようだ。

借入先は、アコムだと言う。
つい最近までアイフル他にもあったけれど、アコムでおまとめローンが通りまとめたらしい。
何度も噛みながら何度もつかえながら、ゆたかくんは話を終えた。
止まらないまばたきは、自分の意志でしているわけではなさそうだ。
顔をしかめるのも、言葉がどもってしまうのも同じらしい。
はなの知っているゆたかくんにはなかった症状が、いくつも出ていた。

100万強。
言われた金額をかみしめる。
思ってたより少ない。
安堵と同時に、疑問が浮かぶ。

本当にそれで全部か?

「アコムはわかった。
 サラ金はおまとめしたから他ではもう借りてないってことね。
 じゃあ、サラ金以外は?」
顔をしかめたりまばたきしたりと忙しかったゆたかくんの表情が止まる。
「・・・会社を辞めた先輩に、借りてる。
 金額は、30万」
脳内電卓に30万追加する。
心のメモ帳にはたわけと記入。
「他には?」
「・・・友達に、4万」
4万追加。
スカポンタン追記。
「他には?」
「・・・もう、ないと思う」
合計134万強。
まあなんてご立派な借金額。
それでもまだ返せない金額じゃなかったことにほっとした。

でも、そこでようやくずっと感じていた違和感の正体に気づいた。
一般的な大人なら、最初にお金を借りるのはサラ金でも友達でもない。
少なくとも、はなは違う。
まずは親。
そうじゃないならクレジットカードだ。

「ねえ、クレカは使ってなかったの?」
ゆたかくんが小さく驚いたのがわかった。
目の前の相手は35才の一般男性だ。
クレジットカードくらい持っているのが普通だろう。
「クレジットカード。
 これだけ借金してて、クレカは使ってなかったの?」
ゆたかくんの顔がさらにゆがむ。
意味が分からない。
今更何を迷うことがある?
クレカの借金には隠したい理由でもあるんだろうか。
うながすようにじっとゆたかくんを見つめると、恐る恐るゆたかくんが口を開いた。
「だって、

 クレジットカードは借金じゃないでしょう?」

ぶっ倒れるかと思った。


ある日35才になる弟がお金を貸してほしいと言ってきた。

うちには今、弟が居候している。
はなの上の弟、ゆたかくん。
けして頭はよくないけれど気は優しくて力持ち。

だとみんなが思っていた男。

彼は、嫌なことから逃げやりたいことだけやり続けた結果、自分で自分の人生をぶっ壊して人に寄りかからなきゃまともに生きていくことさえできなくなった。
今は、債務整理と慰謝料返済を抱えて、生活をはなに経済をまーちゃんに助けてもらいながら、ブラック企業で頑張る毎日を送っている。

全ては、2016年の6月。
仕事終わりにやってきたゆたかくんに、
「お金を貸してほしい」
と頼まれたことが始まりだった。

少し前に仕事が2か月休みになって、その分の給料がでなかった。
だからそこで払えなかった家賃を滞納している。
15万貸してほしい。
それだけの話を、まわりくどく何周もしながら彼は語った。
その声は何度もどもり、その目は何度も空をさまよった。
そんなに暑い日ではなかったけれど、額の汗は流れ続けた。
嘘が下手過ぎた。

私は、話を聞いている間、変わり果てた弟の姿をじっと見ていた。
仕事帰りだということを加味しても、ゆたかくんの姿はひどかった。
何か月髪を切っていないのか、ぼさぼさに伸びた髪は上下左右に好き勝手に広がっていた。
ひげはまだらに伸びて、鼻毛は何本も飛び出して、作業服は仕事の汚れ以上に薄汚れていた。
数年前に見かけた時は細身だった体は、ゆうに100kgクラスにレベルアップ。
飛び出たお腹がベルトの上に乗っかっていた。
爪は真っ黒で激しく伸びたまま。
酒でも飲んでいるかのように顔は赤く、目は血走ってうるんでいた。
汗だけではないにおいを感じたのも、気のせいではなかったと思う。

はなが実家を出て約20年。
けして仲のいい姉弟ではなかったはなとゆたかくん。
ミドリちゃんを通して、何をしているのかという情報くらいは得ていたけれど、会うことも連絡することも会いたいと思うこともなく。
たぶんこのままこんな距離感で生きていくんだと思っていた。
それでよかった。
それを希望していた。
関わりたくなんてなかった。

「家賃は月いくらなの?」
はなが問う。
「5万円です」
ゆたかくんが答える。
「2か月分だよね?」
はなが問う。
「そうです」
ゆたかくんが答える。
「なら10万だよね。
 差額の5万円は何?」
はながさらに問う。
「・・・」
うつむくゆたかくん。

でも、こんな嘘に騙されてやるわけにはいかないんだよ。

なんでこんな嘘で金が引き出せると思ったんだろう。
なんでこんな嘘でさえきちんとつかないんだろう。
なんでこんな嘘で私を騙せると思ったんだろう。

私はこの日、実の弟に殺意さえ垣間見た。
そんな始まりの日の始まりのエピソード。

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