ゆたかくんが本当のことを言っていると仮定して、現段階で総額500万弱。
どれもこれも返せない今は、そのすべてがれっきとした借金だ。
追い込まれてるはずのゆたかくんには、借金してる人独特の高揚感が見て取れた。
もうどん底で、つらくて、苦しいはずなのに、どこか地に足のついてないあの感じ。
数100万という額が大きすぎて、1万円がはした金に見えるあの非現実感。

今唯一携帯で確認をとれる楽天カードの残高は、ゆたかくんの言った通り100万を少し切る額だった。
本人が覚え間違いさえしていなければ、借金のあらましに大きな嘘はないだろう。
金額に関してはもう一度きちんと照会する必要はあるだろうけど、少なくともこの額が大きく減ることはないと思われた。
ちらりと見た、楽天カードの今月の返済分は9万円だった。
家賃がどうのこうのというレベルの話じゃないのは明らかだった。

「これ、どうやって返してくつもりなの?」
「・・・どうにかする」
「あんたのどうにかは人から借りて間に合わせることなの?」
「・・・」

ゆたかくんの頭の中には、ふわふわとした曖昧なものしか入っていないようだった。
何を聞いても、「なんとか」「どうにか」「頑張って」そんな言葉が返ってくる。
私がわかっているだけで、
 数か月滞納した家賃
 カード支払い9万円
 車のローン
 サラ金のローン
 滞納分含む水道電気ガス代
 生活費
大きな支払いがこれだけある。
これだけのものを20万の給料で「なんとか」できるなら、カリスマ主婦にだってなれる。
そもそも、その技術があるならこれだけの借金なんてしないだろう。

聞きたいことは山ほどあった。
問い詰めたいことも溢れていた。
でも、目の前の男は自分から何かを話そうとはしなかった。
まるで被害者のようにうなだれながら、私に何か聞かれるのを待っていた。
こんな状況になっても、自分が何かしなきゃいけないとは思わないんだなと思った。
ひたすらおびえたように困っていれば誰かが何とかしてくれると、それをずっと待っていればいいと、そうやって思考の下の本能に近い部分で思っているんだなと思った。
そういう態度で自分の失敗をやり過ごそうとする自分の弟を、私は静かに軽蔑していた。

「車と家賃はともかく。
 これだけのお金、何に使ったの?
 いつからこんなに借金があるの?
 黙ってるけど、あなたは説明しなきゃいけないことがたくさんあるんじゃないの?」
この後どうするか、頭の中で何パターンも選択肢をあげながら、情報収集を続ける。
ここで放り投げたところで、自分の家族の程度はよくわかっている。
きっと私は、家族がゆたかくんから引き出した情報を信じない。

ゆたかくんは言いにくそうに「パチンコで使った」と言った。
沖ドキというスロットにはまったらしい。
買ったらもっとと思いまた行って、負けたら取り返さなきゃとまた行ったそうだ。
さらに突っ込んで聞けば、大好きな洋服や靴も買ったと。
1着数万もする服や靴をクレカ払いでインターネットサイトから購入していたらしい。
さらに突っ込んで聞けば、自炊もせず毎日コンビニと外食だったと。
コンビニで朝食1000円分、昼は会社の弁当で、夜は毎日同じ家系ラーメン店で大盛ラーメンに好きなトッピングをのせ食べていたらしい。
さらによく見れば、手には新しいアップル社のスマートフォン。
10万以上する端末をローンで買い、毎月GB数が足りなくて追加課金もしていたらしい。
そして大好きな野球ゲームアプリでは、月に数回5000円や10000円単位の課金をしていたそうだ。

こんな使い方をしていたら、手取り20万の一人暮らしが借金まみれになるのも当然だろう。
むしろ、よくここまでもったと思う。
溜息を我慢しながら「他には?」と問うと、こちらを見ずゆたかくんが答えた。
「・・・風俗にも、行ってた」
頭の中でゆっくりと自己破産の文字が揺らいで消えた。