「あなた、借金あるんじゃないの」
直球で尋ねたはなの言葉に、ゆたかくんは一瞬のためらいを見せた後
「うん、ある」
あっさりとうなずいた。

正直、はなは帰りに寄っていいかという電話があった時点で借金絡みを疑っていた。
理由はない。
ただピンときただけだ。
そしてゆたかくんも、あの時は背に腹は代えられなくてお金を借りには来たけれど、きっとばれるだろうとどこか覚悟にも近い気持ちを持っていたと言っていた。
きっと運命の限界点だったんだと思う。
でも、
「借金、いくらあるの?」
そこが問題だった。

今日ゆたかくんが口にした金額は15万だが、そんな金額が総額のはずがない。
そんな程度の金額で、ほぼ連絡の途絶えていたはなのところまでくるもんか。
それなら、よっぽど親しくしていた親や下の弟の方にいくだろう。
もしかして、もうそちらにも行った後か?
はなが知らされてないだけか?
だとしたらどいつもこいつも最悪だ。

顔をゆがめていたゆたかくんが、目をぱちぱちさせながらゆっくりと口を開く。
「金額は、正確にはわからない。
 100万を、こえるくらいだと思う」
・・・あほか。
ゆたかくんが顔をあげた。
心の中で毒づいたつもりが、口からも出ていたようだ。

借入先は、アコムだと言う。
つい最近までアイフル他にもあったけれど、アコムでおまとめローンが通りまとめたらしい。
何度も噛みながら何度もつかえながら、ゆたかくんは話を終えた。
止まらないまばたきは、自分の意志でしているわけではなさそうだ。
顔をしかめるのも、言葉がどもってしまうのも同じらしい。
はなの知っているゆたかくんにはなかった症状が、いくつも出ていた。

100万強。
言われた金額をかみしめる。
思ってたより少ない。
安堵と同時に、疑問が浮かぶ。

本当にそれで全部か?

「アコムはわかった。
 サラ金はおまとめしたから他ではもう借りてないってことね。
 じゃあ、サラ金以外は?」
顔をしかめたりまばたきしたりと忙しかったゆたかくんの表情が止まる。
「・・・会社を辞めた先輩に、借りてる。
 金額は、30万」
脳内電卓に30万追加する。
心のメモ帳にはたわけと記入。
「他には?」
「・・・友達に、4万」
4万追加。
スカポンタン追記。
「他には?」
「・・・もう、ないと思う」
合計134万強。
まあなんてご立派な借金額。
それでもまだ返せない金額じゃなかったことにほっとした。

でも、そこでようやくずっと感じていた違和感の正体に気づいた。
一般的な大人なら、最初にお金を借りるのはサラ金でも友達でもない。
少なくとも、はなは違う。
まずは親。
そうじゃないならクレジットカードだ。

「ねえ、クレカは使ってなかったの?」
ゆたかくんが小さく驚いたのがわかった。
目の前の相手は35才の一般男性だ。
クレジットカードくらい持っているのが普通だろう。
「クレジットカード。
 これだけ借金してて、クレカは使ってなかったの?」
ゆたかくんの顔がさらにゆがむ。
意味が分からない。
今更何を迷うことがある?
クレカの借金には隠したい理由でもあるんだろうか。
うながすようにじっとゆたかくんを見つめると、恐る恐るゆたかくんが口を開いた。
「だって、

 クレジットカードは借金じゃないでしょう?」

ぶっ倒れるかと思った。