贅沢な生活。
必要ない買い物。
過ぎた娯楽。
ギャンブル。
そして風俗。

表情を変えないよう、顔に力を入れた。
怒りなのか、苛立ちなのか、悲しみなのか、軽蔑なのか。
湧き上がっている衝動が何なのか、自分でもわからなくなっていた。
ゆたかくんはこの春で35歳になったはずだ。
なのに、なんだこの頼りなさは。
彼は、聞かれなければずっと黙ったまま自分から何も話そうとはしない。
この借金も、今お金を借りに来たことも、私に放り投げたままただ黙って次の指示を待っている。

「お父さんとお母さんに、話すよ」
私の言葉に、ゆたかくんの頭がはねあがった。
目がいやだと訴えていたが、無視をして続ける。
「金額を考えても、内緒にしておける話じゃないでしょう。
 それに、アパートの保証人だって親なんじゃないの?
 それだけ滞納してれば、連絡がいくのも時間の問題でしょう」
それに、と続けかけて、自分の妄想に背筋が冷えた。
「トムはどうしてるの。
 ちゃんと、元気にしてるでしょうね?」

トムは、ちょうど3年前の夏にゆたかくんが拾った子猫だ。
当時ペット不可のアパートに住んでいたゆたかくんは、拾ったトムを飼いたくて今のペット可のアパートに引っ越した。
その引っ越しの間の2か月間、うちで面倒を見ていたのでトムのことは私もよく知っている。
この3年間、ゆたかくんの手元にはトムがいたはずだ。
ずっと。
こんな。
借金まみれの中に。

「元気だよ」
慌てたようにゆたかくんが答えた。
さすがに何を疑われたのかはわかったらしい。
「ご飯もトイレもやってる。
 トムも元気にしてる」
自分の生活がこれだけ崩壊してるのに猫の生活がきちんとできているはずがないだろう。
ゆたかくんの言葉は、内容とは裏腹に私に少しの安心も与えなかった。
近いうちに引き取ろう。
心の中で決意した。

煮詰まり始めた話を前に、私は携帯電話を手に取った。
「これからお父さんとお母さんに電話をする。
 そして、今あなたが話した全てを伝える。
 そしたら、明日か明後日、できるだけ早いうちに家族会議をしたいと思う」
ゆたかくんがうつむく。
「こうなってしまった以上、私は洗いざらい調べる。
 嘘をついてても、必ずわかる。
 まだあるなら、全部今自分で言った方がいいと思う。
 もう隠してることはない?」
ゆたかくんがうなずく。
それを見て、ゆっくりとボタンを押した。

いつも笑顔なうちの母は、その時もご機嫌で電話に出た。
ほんわか、のんびり、ドジも多いけどなんにでも一生懸命。
母は、はなとは正反対の人だ。
はあい、はなちゃん晩御飯食べた?と、言葉に音符がのっていそうな声色も普段と何も変わらない。
これからこの声が曇っていくのを聞くんだなと思った。